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大阪高等裁判所 昭和60年(く)63号 決定 1985年6月03日

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、申立人作成の抗告申立書記載のとおりであつて、要するに、少年は、仮退院後犯罪を行つていないし、初等少年院を仮退院した者であるのに、種類の異る中等少年院に戻し収容した原決定の処分は著しく不当である、というのである。

そこで、所論にかんがみ本件保護事件記録及び少年調査記録を調査して検討するのに、少年は、昭和五五年七月一五日大阪家庭裁判所堺支部において初等少年院送致決定を受けて加古川学園に収容され、昭和五六年六月一九日仮退院し、神戸保護観察所の保護観察に付されたものであるところ、本件戻し収容申請書中申請の理由欄(1)ないし(3)記載のとおり一般遵守事項及び特別遵守事項に違反し、祖母や実母に対する粗暴な言動に及び、暴力団関係者との交際をなし、昭和五九年八月中旬以降保護観察から離脱するに至つたもので、これらの行状は、原決定が判示する少年の資質や保護環境に起因すると認められ、仮退院後非行を犯していないとはいえ、このままでは将来非行を犯す虞れは高く、保護観察の継続によつて少年の改善を図ることは著しく困難であると認められ、その要保護性の程度は、初等少年院送致決定当時とは年齢が異るうえ、仮退院後の行状に徴して著しい変化があるから、少年に対し二一歳に達するまで中等少年院に戻し収容した原決定は相当であり、その処分が著しく不当であるとはいえない。

以上のとおり、本件抗告は理由がないから、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 兒島武雄 裁判官 谷村允裕 中川隆司)

〔参照〕原審(大阪家堺支 昭六〇(少ハ)三号 昭六〇・五・二決定)

主文

少年を昭和六一年一〇月一三日まで中等少年院に戻して収容する。

理由

一 本件申請の要旨

少年は昭和五五年七月一五日大阪家庭裁判所堺支部において初等少年院送致決定を受け、加古川学園に収容され、昭和五六年六月一九日同学園を仮退院し、以後神戸保護観察所において保護観察中の者であるが、別紙「申請の理由」記載のとおり少年院に戻して収容すべきものと認められるので、犯罪者予防更生法四三条の規定により申請する。

二 当裁判所の判断

本件保護事件記録、少年調査記録及び審判の結果を総合すれば、

(一) 少年は申請の理由記載のとおり遵守事項に違反した事実が認められること、ことに昭和五九年八月中旬以降は保護観察を離脱してしまい、保護観察に復するよう指導しようとする保護司に対し恫喝的言辞をもつて反抗したりしていること、

(二) 性格、行動傾向として、過敏性、不安定性、自己顕示性が顕著である、易刺激的でイライラしやすく短気、ちよつとしたことで投げやりになり否定的感情を強める、自己の功利にのみ敏感で協調性を欠くなどの点を指摘することができること、

(三) 仮退院後外に向かつての大きな非行はなかつたものの、頻回の転職、家人への金銭強要とそれが容れられないときの粗暴的行動、暴力団への所属、親和的態度などに照らし、非行発生の準備性は高い状態にあるといえること、

(四) 親族は少年の金銭要求に疲弊してしまつており、その保護能力は皆無に等しいこと

などが明らかである。

したがつて、少年に対しては中等少年院に戻して収容し、強力な矯正教育を施すべきものと考えられ、その収容期間は仮退院後の保護観察期間も考慮に入れて二一歳に達するまでとするのが相当である。

よつて犯罪者予防更生法四三条一項、少年審判規則五五条、三七条一項、少年院法二条により主文のとおり決定する。

裁判官 松本芳希

(別紙)

申請の理由

本人は、仮退院に際し、犯罪者予防更生法第三四条第二項に定める遵守事項(以下「一般遵守事項」という)及び同法第三一条第三項に基づき当委員会が定めた遵守事項(以下「特別遵守事項」という)を遵守することを誓約したにもかかわらず、

(一) 別紙(1)<省略>のとおり、昭和五七年一〇月頃から同六〇年一月頃までの間に祖母らに対し、適当な口実をもうけて再三にわたり金銭の無心をなし、もし要求に応じないときは、暴言をはくほか、家財道具を壊すなど粗暴な行為を繰り返して保護者を困窮させ(一般遵守事項第二号「善行を保持すること」に違反)

(二) 保護観察所長の許可を求めることなく、昭和五九年八月下旬頃から居住すべき住居である尼崎市○○○町×丁目××-×○○文化内に居住しないで、以後その所在を明らかにせず保護観察から離脱し、(一般遵守事項第四号「住居を転じ、又は長期の旅行をするときは、あらかじめ、保護観察を行う者の許可を求めること」及び特別遵守事項第六号「進んで保護司を訪ね、その指導に従うこと」に違反)

(三) 昭和五九年八月一六日暴力団○○組系○○組○○支部に籍をおき、以後暴力組織関係者と交際し、マージャン賭博を反復して行い(一般遵守事項第二号「善行を保持すること」同三号「犯罪性のある者又は素行不良の者と交際しないこと」及び特別遵守事項第四号「悪い友達とは交際しないこと」に違反)

もつて遵守すべき事項を遵守しなかつたものである。

ところで、本人に対する保護観察の経過をみると、保護観察官及び保護司は、本人に対し、再三にわたり遵守事項を遵守させるため必要な指示を与えるなどして、指導を行つてきたものと認められる。かかる指導にもかかわらず、保護者から金銭を無心して徒食生活をした挙句、暴力組織に加入し、賭けマージャンをするなど更生の意欲はいささかもうかがえず、本人の性格・環境に照らし、その行状は更に悪化し、今後再非行の虞れなしとしないので、これ以上保護観察による指導監督を続けても改善は至難であり、本人の保護と社会の防衛のため、施設に戻し収容して強力な矯正教育、規律ある生活訓練によつて改善を図る以外ないものと思料する。

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